『 いただきます ― (2) ― 』
えっさ ほいさ えっさ ・・・
「 え〜〜 このくらいで足りるかなあ〜〜 」
ガサリ ― ジョーは勝手口に 新聞紙の包を置いた。
「 どれどれ みせて 」
フランソワーズは エプロンで手を拭き拭き覗きこむ。
「 いいのがあった? 」
「 うん、水菜がねえ すごい豊作〜〜 あ 根っこのトコ、濡らしてあるから
気をつけて 」
「 はあい うわあ 瑞々しいわね 美味しそう〜〜 このまま食べたいわ 」
「 ね? ウチで作れるんだね〜〜〜 びっくりさ。
えっと あとはね パクチー と ラディッシュも収穫できたよ 」
「 あ カワイイ〜〜 ラデイッシュ(^^♪ 」
フランソワーズは 赤い丸っこい小蕪を取り上げ撫でている。
「 ミニ・トマト も豊作だったから採ってきたよ ほら。 」
「 ありがとう〜〜 ジョー。 ざっと洗っておくわね 」
「 頼むね〜〜 あ アイスは? 冷凍庫? 」
「 ええ ガチガチ。 持って行く時、どうするの? 保冷袋? 」
「 あ う〜ん ・・・ 量 多いからクーラーボックスに入れてくね 」
「 あ いいわね〜〜 グッド・アイディア 」
「 えへへ ・・・ あ〜〜〜 楽しみだなあ〜〜 」
「 お野菜とアイス。 博士はワインって言ってらっしゃったわね。
荷物多いわ〜〜 」
「 あ ぼくが先にね クルマで運んでおくよ。 」
「 ありがとう〜〜 どうしようって思ってたの 」
「 まかせてよ。 あ 行く時も車出すからさ いろいろ荷物あっても
大丈夫だよ 」
「 うれし〜〜〜 ほら ひざ掛けとか持ってゆきたいの 」
「 おっけ〜〜 」
今日の晩餐はコズミ邸での 鍋パーティー。
コズミ老は 頂き物の山ほどの上等牛肉を提供してくださる。
うわあ〜〜い ステキ♪ 楽しみじゃのう
ギルモア邸では < 持ち込み品 > の準備に余念がない。
ジョーは 早々に 鍋奉行を買って出、温室から新鮮野菜を提供。
フランソワーズは バレエ団の近くにある有名アイスクリーム店から
お持ちかえりアイス。
博士は 秘蔵のワインを持ち込むことにしている。
「 え〜〜と? 夜は冷えるからダウン・ジャケット着てこ・・・
あ あと ボアの靴下とひざ掛けと 消毒用のテイッシュ と 」
フランソワーズは なにやら大荷物になりそうだ。
「 クルマ、出してくれるなら安心よね〜〜 」
ぴんぽ〜〜〜ん 玄関のチャイムが鳴る
「 ほっほ〜〜 ワテやで〜〜〜〜 おご馳走、もってきてん 」
インターフォンから 元気な声が聞こえてくる。
「 あ 大人〜〜〜 いらっしゃい〜〜 待ってたのよぉ〜〜 」
玄関に飛んでゆけば ―
「 ほっほ・・・ おばんどすな〜〜 フランソワーズはん
ほおら オイシイもん、持ってきたで〜〜 」
丸まっちい料理人は 大きな風呂敷包みを持ち上げてみせた。
「 きゃ♪ わああ なあに? 」
「 うっとこの 名物点心とあとウドンやで
今晩の鍋料理の〆は ウドンです 」
「 うわ〜〜〜 これ 桃饅? 食べたいわあ〜〜〜 」
「 待ちなはれ〜 もうちっとやで 」
「 う〜〜ん お腹 ぺこぺこなのよねえ 」
「 ほっほ〜〜〜 今晩の牛しゃぶはんのために
う〜〜んとお腹 減らしときなはれ。 たんと上がれるようになあ 」
「 うふふ♪ わたし、ビーフ大好きなの 」
「 あのな このお国の上等な牛はんは もう〜〜舌が蕩けまっせえ
どなたでん、虜になりはるで。 」
「 そうなの?? きゃ〜〜〜 楽しみ〜〜 」
お〜〜い 間に会ったかな
ひょっこり ― 後ろから見慣れたスキン・ヘッドが現れた。
「 本日の大晩餐会に ― 秘蔵の銘酒をお持ちしたぞ
マドモアゼル。 相変わらずお綺麗で ・・ 」
名優氏は パリジェンヌの手を取って恭しく挨拶をした。
「 ムッシュウ〜〜 いつもお上手ね。
あら スコッチ? こちらは まあ 日本酒ね 」
「 左様。 今晩は無礼講、若者も上等の酒を味わってごらん?
若いうちから舌も鍛えておかないとな 」
「 そう・・・? うふふ 飲んじゃおうかな〜〜 」
「 保護者つきゆえ 構わんだろ。 え〜〜と 荷物は 」
「 あ 先にね ジョーが車で運んでくれるんですって 」
「 おお〜〜 それは助かるなあ
んん? クーラーボックス?? これもか 」
グレートは玄関わきに置いてある箱に目を止めた。
「 そうなの。 あのね、あのアイスが入ってるの。
ほら青山のあのお店の・・・ 」
「 うほ♪ そりゃいい〜〜
ああ この箱があるなら オン・ザ・ロック用の氷も頼めるかな 」
「 氷? ・・・ ああ ウィスキー用のね。
はい ウチの冷凍庫にあると思うわ 見てくるわね 」
「 すまんな マドモアゼル 」
「 おお 間に合ったな ミスタ・名優 」
「 ドクター。 本日はお招きに与りまして恐悦至極〜〜 」
俳優氏は 丁寧に会釈をした。
「 いやいや それはコズミ君に言っておくれ 」
「 いやいや お誘いの仲間に入れていただけましたので 」
「 そりゃ ご丁寧に。 お 時にそのスコッチは 」
「 ほほほ 御慧眼おそれいりますな。 例の逸品ですぞ 」
「 これは これは 咽喉への御馳走じゃのう〜〜 」
「 じっくり まったり ― 大人の時間を コズミ老と 」
「 ふっふふふ こりゃいいわ 」
― ガタン ジョーがダウンのまま 入ってきた。
「 荷物、届けてきました〜〜〜 本隊の出発は6時半くらいでいいすかあ 」
「 おう ボーイ。 宜しく頼むぞ 」
「 あ グレート〜〜 間にあったね〜〜〜 よかったあ 」
「 さあ 忘れ物 ないわよね? 」
「 うん 多分 ・・・ 」
「 え〜と お野菜 に ウドン、 点心 でしょう?
博士のワインはね ご自身でもって行きたいそうよ。
あ ― ジョー もしかして おとうふ とか必要じゃないの? 」
「 え? あ〜〜〜 そうだあ〜〜〜〜
豆腐と あとね ネギ! 長ネギ いるよ !
すっかり忘れてたぁ ! 」
「 いいわ わたし 商店街の八百屋さんで買ってくるわ。
皆 先に行ってて ・・・ わたし 直接コズミ先生のとこに
行くわ 」
「 え〜〜〜 きみ 荷物が 」
「 ふふふ わたしだって 003 よ?
すぐに追いつくから。 ― 先に始めちゃ いやよ? 」
「 当ったり前さあ あのね ネギと豆腐がなかったら
鍋は 始まりません。 」
「 そうなの? 」
「 そうです。 003、きみの使命は重大です。 」
「 了解 ( ラジャ )! 」
003は お気に入りのダウン・コートに包まると
玄関から駆けだしていった。
「 へえ 鍋パーティかい 岬のお嬢さん 」
八百屋の大将は少し驚いた声をだした。
フランソワーズは顔なじみの商店街の八百屋にとびこんだ。
「 あ あの! ねぎ ください! あの〜〜 長〜いの! 」
「 おうよ、 群馬のいい長ネギがあるよ〜〜
このまま焼いても美味いよぉ〜 」
「 え ・・・ 焼く? あのう なべ なんです・・・ 」
「 なべ? ・・・ ああ 鍋料理かね。
うん 煮込んでもめちゃくちゃウマいよ。
あれ それじゃな シイタケと白菜は必須だな〜〜
あと ・・・ 向かいの豆腐屋で焼き豆腐とシラタキを買っておいで 」
「 え え?? やき どうふ?? しらた き ですか 」
「 そ。 牛肉鍋 なんだろ?
ぜ〜〜んぶ一緒くたに煮込んでごらん?
目の玉が飛び出るくらい ウマイよぉ〜〜 」
「 は はい! ありがとうございます ! 」
― 結局、野菜に 焼き豆腐 に シラタキ、 そして 卵 が加わり
フランソワーズは 両手に大荷物になってしまった。
「 う わあ〜〜 ・・・ ジョーに頼めばよかった・・・
いえ! わたしだって003なのよ?
これっくらい なんでもないわ! 」
えっほ えっほ ・・・
マフラーをとり ダウン・ジャケットは腰に結び。
フランソワーズ嬢は大汗をかいて大荷物で コズミ邸に到着した。
ぴんぽ〜〜〜ん わたし・・!
「 あ〜〜〜 フラン〜〜 待ってたよ 」
ガラガラガラ −−−
玄関の引き戸が開いて ジョーが飛び出してきた。
「 どこまで行っちゃったのかと ・・・ うわ???
すごい荷物〜〜〜 って あれ? きみ 汗びっしょりじゃん?? 」
「 ・・ ジョー。 これ。
鍋料理には 必須の ねぎ しいたけ はくさい。
やきどうふ しらたき。 あと 卵! 」
どさり。 彼女両手に下げてきた袋を置いた。
「 わあ ありがと〜〜〜 ね フラン コズミ先生にお願いするからさ
さ・・・っとひと風呂 浴びておいでよ? 」
「 え だって まだご飯前だし ・・・ 」
「 汗まみれだよ? そのままだと風邪ひくってば 」
「 でも なべ の準備が 」
「 それは〜 ぼくと大人でやるよ。
きみは買い出ししてきてくれたんだもん、とにかくお風呂!
ほら 震えてるじゃんか 」
「 え? あ ああ そうね 止まったら急に寒くなってきたわ 」
「 ね! コズミせんせ〜〜〜 あのぉ〜〜〜 」
ジョ―は フランソワーズの手を引いて奥に入った。
かぽーん ・・・ 清潔なお風呂場に手桶の音がひびく。
「 あ ・・・・ いいきもち〜〜〜〜 」
フランソワーズは湯船の中でゆったり手足を伸ばす。
当家のご当主が喜んで案内してくれたのは 立派な檜の浴槽のある
真新しい風呂場だった。
「 さあさあ お嬢さん。 ウチの自慢の風呂を使ってくだされ。」
「 はい ありがとうございます
・・・ あ? なにかいい香りが ・・・? 」
「 ふふふ これが檜の浴槽の香 ですじゃ
ああ 給湯はこのパネルスイッチでオッケーですよ 」
「 まあ すごい ・・・
あ あのう わたし、いつもウチでも日本風のお風呂に
入ってますから 大丈夫です 」
「 そりゃよかった まあ 十分に温まってくだされや
ああ よかったらシャンプーなどもご自由にお使いなさい 」
「 わあ ありがとうございます〜〜〜 」
そして フランソワーズは ゆ〜〜〜ったりと香のいい浴室で
のんびりしている ・・・
「 さ・・・っいこう〜〜〜 ♪ ああ 身体中がほぐれてゆくわ・・・
脚と足のメンテもしちゃおう っと ・・・ はああ〜〜〜 」
透明な湯の中で 手足を十分に伸ばし、マッサージ。
左脚は特に入念に ・・・ 足の指も一本づつ揉みほぐす。
「 う〜〜ん ・・・ 日頃の手入れをちゃんとしないとねえ
でも 時間ないし。 ああ もう天国〜〜〜 」
ちゃぽん ・・・ 普通のお湯だけど本当に爽やかな香りなのだ。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ なんかね 森林の奥でお風呂に入っているみたいね
すごいなあ〜〜 」
コズミ先生のお言葉に甘え、思い切って髪もすっかり洗った。
「 二ホンのお風呂って。 最高よう〜〜〜〜 ♪
ああ ・・・ そろそろ出ようかな ・・・ 」
全身を桜色に染めて フランソワーズは檜の浴槽から出た。
「 しっあわせ〜〜〜〜〜♪ 」
脱衣所では ふかふかのバスタオルが待っていた。
― さて。 そのころ台所では
茶髪の若者が割烹着に三角巾を被り コキ使われている真っ最中。
「 ほな このお大根、上半分は拍子切り、下半分は大根おろしや。 」
「 ひえ ・・・ 」
「 これ 使こうてな ええな? 」
ズイ。 年代モノのおろしがねとボウルが押し付けられた。
「 ひえ ・・・・ 」
「 全部丁寧〜〜におろしてや。 けど 手早くやらな あかん 」
「 え・・・ 」
「 のろのろやったら 味、落ちるで。 ほな たのんだで 」
「 ひえ〜〜〜 」
「 あ・・・ それ おわったらなあ〜 シラタキ、さっと湯ゥかけてや。
あと お豆腐、切って 水菜もネギもざくざく切りやで
お野菜と豆腐類は こう〜〜 大皿に盛ってやあ 」
「 ひえ ・・・ 」
「 わかってんのかいな? 」
「 ― ら らじゃ ! 」
「 さあて ・・・ このおウチには立派な土鍋がおわしますなあ〜
グレートはん? 昆布さんは浸してまっか 」
「 おう。 酒もどぼり、とな。 」
「 ふん ・・・ あとは ウドンの用意でんな〜
人数分のお箸にお椀 ― おお これは塗りの食器でんな〜〜
ええ こっちゃ 今晩は 目ぇもおご馳走を頂けます 」
「 大人〜〜 この立派な牛肉は冷蔵庫に入れとかんでいいのかね 」
「 ええんですワ。 常温にしてええお味をだします。
ほな お座敷に運びますかな ― ジョー はん? 」
大人は 調理台を振り返る。
「 ・・・ っく〜〜〜〜〜〜〜〜 」
茶髪の若者が 卸し金相手に奮闘していた。
「 ・・・ くう〜〜〜〜 こ これが なかなか 〜〜〜〜 」
「 ? なにやっとんねん? そげなチカラづくしはったら
大根サンはいうこと、聞いてくれませんで 」
「 だって これですり下ろすんだろ? 」
「 ちゃうで。 こう〜〜〜な 卸し金さんの上で
大根はんと す〜りすり するんやで・・・ ちょい 貸してみい 」
料理人は 妙な形になった大根を受け取ると
おろし金の上で ちょいちょい・・・と回しはじめた。
しゃり しゃり しゃり〜〜〜〜
ボウルの中には たちまち真っ白な大根おろしが溜り始める。
「 ・・・ わ ああ〜〜 すげ〜〜〜 」
「 な。 ほな 残り、たのむで〜〜〜〜
グレートはん? コズミ先生に声かけて お座敷の準備 よろしゅう 」
「 ほいきた。 ここの座敷は12畳はあるなあ〜〜
床の間もあって見事な日本間だ。
あ〜〜〜 コズミ先生 〜〜 」
カラリ。 襖を開けてコズミ博士が出てきた。
「 ほいほい ちょいとお待ちくだされや〜〜〜
えっと ・・・ほい・・・っと 」
パチン パチン。 ぐう〜〜〜ん ・・・・・
和室全体が微妙に揺れた気もしたが 床の間の花瓶は微動だにしない。
「 お・・・? 」
「 やあ こちらに寄っていてくださいな ほいっと 」
パチン。 壁の電気のスイッチ・・・と見えたものを
コズミ老は 何気なく押した。
がっこん ご〜〜〜ん ・・・
突如 座敷の中央のタタミが一畳分くらい陥没し始めた。
「 お?? おおお〜〜〜〜〜 こ これは??
もしや 二ホン家屋の伝説の・・・? 」
「 ほっほ・・・ ご明察〜〜 掘りごたつ ですじゃ。
もともと最初から炉が切ってあったのですがなあ
何年も前に閉じてしまっていたのを 思い出しての〜〜 」
「 はあ それで このシステムを? 」
「 ちょいとイタズラで作ってみましたわい。
いかがかな?? 中央には IH仕様の小型ヒーターですよ 」
「 これは 素晴らしい〜〜〜 どれ 失礼を 」
グレートは早速 タタミの縁に腰をかけ 掘りごたつ部分に
脚をおろした。
「 お〜〜〜 快適! われら西洋人には二ホン家屋での 正座 が
なによりもネックになっておりましてなあ 」
「 ほっほ・・・ わしら老人もご同様ですよ。膝が なあ・・・
さあ これなら皆さんで楽々鍋料理を囲めますなあ 」
「 素晴らしい〜〜〜〜〜♪ 二ホン家屋に乾杯 ! 」
そうなのだ。
突如広い座敷中央に 掘りごたつ が出現。
さすがコズミ邸、ボタン一つで座敷の中央が沈んで 掘りごたつ に変化した。
「 皆さん 座布団をどうぞ。 タタミは床暖房になってますがな 」
「 これは 最高ですな どれ テーブルを運びますかな。
ジョー?? おい 若いもんの仕事だぞぉ〜〜〜 」
「 ・・・・ 」
「 ? 返事がないぞ? お〜〜〜い 009??
お前さんの仕事があるぞぉ〜〜〜 」
「 ・・・ ごめ ・・・ だいこんおろし が 終わらなくて 」
台所から半ベソの声が聞こえてきた。
「 なあんだあ? だいこんおろし?? ふん 情けないやっちゃ
まあ せいぜい大人に指導を仰ぐのだな。
では ここは拙者が 」
俳優氏は 腕まくりをした。
「 あいや ミスター、 それはあまりに失礼で 」
「 コズミ先生・ 吾輩の腕力をお見縊りなさるな。
この座卓を運ぶくらい 朝メシ前ですぞ? では 」
彼は 座敷の控えの間に置いてあった座卓に手をかけた。
「 ん〜〜〜 よ・・・っと? お? 意外にカルイ?? 」
「 これ 真ん中に置くのですね? わかりました。
ああ グレート、 危ないから避けていてね 「
涼やかな声が聞こえて。 ほわほわの褞袍 ( どてら ) に
身を包んだ金髪美女が 軽々とブツを持ち上げていた。
「 お〜〜〜 これは マドモアゼル〜〜〜〜
なんと その華奢な御腕で ・・・ 」
「 だ〜から。 わたしだって003なのよ?
このくらい軽いわ。 ほらほら ご年配はどうぞ隅にいらして。 」
「 へへ〜〜〜〜 どうもこれは・・・・
では 座布団などをお運びもうす。
ああ これはマドモアゼルのお荷物かな 」
「 お願いします。 あ そうです。 こちらにお願いしますね 」
「 ほいほい 」
グレートは 大きめの紙袋を運んできた。
「 ?? ひざ掛けにもこもこソックス?
ああ ダンサーは脚が命 だからなあ 」
「 え ええ それもあるけど ・・・ 」
「 あるけど? 」
「 あのう ・・・ タタミってちょっと苦手で 」
「 いや 吾輩も正座は苦手だがね こちらのコタツは ほら・・・
椅子と同じ形式であるよ 」
「 あらあ〜〜 すごい♪ これ いいわね! 」
ストン。 彼女は厚い座布団の上に座った。
「 ほ〜〜 なんとも可愛らしいなあ〜〜
その温かそう〜〜な 褞袍は 脱いでおいた方がよろしいかと 」
「 これ? ど てら っていうの?
滅茶苦茶に暖かいのよ〜〜〜 コズミ先生が新しいの、下さったの 」
「 ほう〜〜〜〜 今時 新調品があったのか ・・・
いや それは極寒の地域で使用したりするようだよ。
鍋パーティが始まったら 脱いでおかれよ 」
「 そうね ちょっと熱いかも ・・・ とっても気持ちいいんだけど 」
「 ダウンより 温まるかもしれんなあ 」
「 ね? これなら 膝かけとかもこもこ靴下、必要ないわ 」
「 マドモアゼル? こちらのお座敷は苦手かな 」
「 え? ええ・・・ わたし 正座はできないし・・・
あの・・・ ちょっと寒くない? 」
「 コタツに入れば大丈夫だと思うが 」
「 そう? あ それに ね タタミ って ・・・
ジョーは のびのび寝っころがったり
夏とか縁側で寝そべったりしているけど ・・・ わたしは ・・・ 」
「 いやいや 暑熱の季節に タタミの上に寝ころぶのは
快適ですぞ? ひんやりしてなあ 」
「 ・・・ だって 普通に歩くところに ねるの??
外からすぐの板の廊下に 寝るの? ― あのう 汚いんじゃない? 」
そういえば 彼女はソックスを持ちあるき、座敷では座布団の上にしか座らない。
縁側では 自分のハンカチを敷いて座っている。
「 いやあ マドモアゼル?
この国の人々は 玄関でちゃんと靴を脱ぎますからな。
それに どこの御宅も毎朝しっかり掃除をしておられるようですぞ 」
「 え ・・・ そうなの? 」
「 左様。 冬でも ほら ・・・ タタミはほっこり温かい 」
グレ―トは掘りごたつに腰を下ろし す〜〜っとタタミを撫でている。
「 ・・・ あら 本当 ・・・ 」
「 ま 安心してこちらのお座敷で楽しんだらいい。 」
「 うふふ ありがと♪ あ コタツ ですよね〜〜
お布団、持ってこないと ・・・ 」
「 おお そうですな あと 卓上コンロと 鍋! 」
「 うふふふ 楽しみ〜〜〜〜
あ そうだわ コズミ先生とギルモア博士のお席、作っておかないとね 」
「 うむうむ ジョーは鍋奉行を買ってでているから
腰を軽くしてもらわんとな 」
カラリ。 襖が開いてギルモア博士も入ってきた。
「 おお フランソワーズ、 いい顔色じゃな 」
「 うふふ お風呂、使わせていただきました。
すご〜〜くいい匂いなんです えっと・・・ いのき? 」
「 ひのき じゃろ? 」
「 ああ お嬢さん 風呂は如何でしたかな 」
「 あ コズミ先生〜〜〜 もう最高でした!
なんかね 森林の中でお風呂に入っていたみたい・・・
トクベツな入浴剤でもお使いなのですか? 」
「 ほっほ〜〜 お嬢さん あれが檜の浴槽の醍醐味ですわ。
あの浴槽は檜でできておるんです 」
「 え・・・ じゃあ その香ですか すご〜〜い〜〜〜
最高の 森林浴 でした! ありがとうございました。 」
フランソワーズはぺこり とアタマを下げた。
「 いやいや ・・・ お気に召してワシもウレシイですよ 」
「 ああ いい顔色になったなあ フランソワーズ
何やら髪をつやつやじゃないか 」
ギルモア博士も 目を細めている。
「 まあ そうですか 嬉しい〜〜〜 」
「 さあさ 皆はん お鍋はんの登場でっせ〜〜〜 」
台所からいつもの剽軽な掛け声と共に 大人が大皿をささげてやってきた。
一皿は 色鮮やかな野菜類と豆腐、シラタキ。
もう一皿は なんとも艶やかな牛肉が薔薇の花のように鎮座まします。
「 ジョーはん? 気ィつけな あかんで。
お鍋はんは そう〜〜っと。 中の出汁をこぼしたら あかん。 」
「 う ・・・ うん ・・・ 」
料理人の後ろからは ジョーが妙〜〜なすり足で大鍋をささげて登場だ。
「 わあ ・・・ すごい〜〜〜 」
「 ほうほう これが二ホンの超高級牛肉 ですかい
まあ いい色ですなあ 」
「 ほっほ〜〜 かつての教え子達がた〜〜んと贈ってくれましての
ま みなさん たらふく召しあがってください 」
「 コズミ君 すまんのう〜〜
」
「 いやいや オイシイモノは大勢で頂くとまた格別ですからなあ 」
「 そうだなあ おお 野菜の彩取りもすばらしい 」
「 ふむふむ お 焼き豆腐にしらたき ・・・ 卵も
和食に詳しい方がおられますなあ 」
「 あ あのう 地元の八百屋さんにアドバイスして頂いて・・・
これ 全部お勧めの野菜なんですって 」
「 素晴らしい〜 食材の専門家に選んでもらったとは。
ああ これは深谷ネギですな これは美味い〜 」
「 うふふふ ・・・ よかった 」
「 さあさ 皆はん お席へどうぞ?
両先生方は ささ こちらへ。 」
掘りごたつの周りに皆が腰をかけ 卓上コンロをみつめている。
「 ・・・ ここに 鍋 ? ここでつくるの? 」
「 そうですじゃ。 テーブルの上で煮ながら頂きます 」
「 すご〜〜い ・・・ わたし 初めてです 」
「 ほっほ〜〜〜 ではでは えっと まずは グレートはん? 」
「 ほい まずは乾杯から。 どなたもお口を湿して頂いて・・・
辛口の冷えたワインです 」
チリン チリン −−−− カチン
小さなワイン・グラスで 全員が乾杯。
大人が さささ ・・・っと 前菜っぽく松前漬けを配った。
ん〜〜〜 んま〜〜 美味しい♪ うわ これおいし!
「 さあ ジョーはん ではどうぞ鍋奉行 頼んまっせえ 」
「 おっけ〜〜〜 あ この恰好でシツレイします〜〜〜 」
ジョーは 割烹着のまま。 大皿から牛肉を鍋に投入しようと ―
!!! すと〜〜〜っぷ! なにしはんねん!
料理人の大音声が 座敷に響いた。
「 え??? あ ・・・・ あの ・・・? 」
びく。 ジョーは箸を持ったまま固まった。
Last updated : 12.27.2022.
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********** 途中ですが
あは 越年の鍋宴会 になりました ・・・
ま いっか ・・・ (._.)